モデレーター
佐藤 美央 国際移住機関(IOM)駐日代表、GPAJ副理事長
報告者
ダーク・ヘベカー 国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)駐日代表
花田 吉隆 元東ティモール大使、GPAJ副理事長
コメンテーター
ヘルマン・サルトン 国際基督教大学准教授、GPAJ事務局次長
春 具 元化学兵器禁止機関(OPCW)人事部長
ラポルター
天野 富士子 GPAJ会員
本分科会は、モデレーターの佐藤IOM駐日代表から、「人の移動」は国連の2030 SDGアジェンダにおいても中心的な課題の一つとして認識され、2016年9月19日の国連総会において、難民と移住に関する二つのGlobal Compactの策定が決定されるなど、国際社会の共通の課題の一つとして取り上げられるようになってきたとの説明がなされ、開始された。本分科会の目的は、ロヒンギャ難民の事例及び欧州における難民・移民に関する対応を取り上げつつ、平和構築支援の観点から「人の移動」を議論することだと提起された。
第一に、UNHCR駐日代表であるヘベカー氏から、ロヒンギャ難民問題について、「難民」・「国家」・「国際社会」3点の角度から分析され、ロヒンギャ難民問題では、数々の近代的な国際ジレンマが投影されていると言及された。世界的に対立の数が上昇し、難民及び避難民が増加したにもかかわらず、多数の政府から国際支援機関への支援金が減少した現象が触れられた。主にバングラデシュにおけるロヒンギャ難民への対応に関する特段な課題として、①キャンプ地の過密性及び持続可能な土地の欠如、②現地支援機関による調整の欠如、③水及び衛生状態、④調理のための森林伐採及び環境の悪化、⑤生計手段の欠如・失業問題、⑥教育の機会の欠如、及び、⑦上記①から⑥に対する不満から若者の過激化の可能性等が、列挙された。更に、UNHCRを含む国際社会は、ロヒンギャ難民問題に関して、まだ実質的な解決レベルには至っておらず、対症療法にとどまっていると結論付けられた。最終的な解決には、国内レベルでの取り組み、及び草の根における平和及び信頼構築が不可欠であるが、ミャンマーのラカイン州におけるロヒンギャ社会の包含に向けた市民のサポートの低さに挑戦が存在すると追加された。
第二に、花田氏から、移民/難民問題には2つの側面があり、2015年以降の受け入れ国である欧州諸国に関する詳細な分析の必要性が言及された。2015年に、シリア及びその他諸外国から100万人超の難民が欧州に流出した後、欧州における移民/難民の数は劇的に減少したと説明された。欧州の移民/難民問題に起因する問題は、現実ではなく、心理的なものであると特定された。受け入れ国による円滑な受け入れ(Acceptance)は、受け入れ国の2つの要件、即ち、移民/難民のVolume(人数)及びAssimilation(同化)に依拠されるものであり、双方共に、容易に制御できるものではない旨強調された。また、問題は経済ではなく、市民による自らの居住地域の伝統、及び価値観に対する強い固執に示される、「アイデンティティー」であるとの所見を述べた。問題がより「emotional(感情的)」となったことを踏まえ、人間が一般的に「not idealist(理想家)」ではなく、「conservative(保守的)」であることが判明したと結論付けられた。
最初のコメンテーターであるサルトン准教授から、ヘベカー氏の講演に対する自らの視点が提供され、バングラデシュでの教職経験に触れられつつ、前職の教育機関がロヒンギャ難民の学生の受け入れに対する問題に直面した経緯が説明された。具体的には、当該教育機関がバングラデシュ及びミャンマー双方の政府から抵抗や反論を受けたと述べた。花田氏のプレゼンテーションについては、世界規模で多数の国家の指導者の態度が益々保守的になってきているため、一般市民の心理に当該指導者の方針が投影されることが、現在の最大の問題だと示唆された。
次のコメンテーターである、春氏からは、ヘベカー氏の講演について、平和構築プロセスの一環となる、司法による犯罪の法的処理の必要性、かつ、必要に応じ、それが持続可能になるためには、国際裁判所によりなされることの必要性について述べられた。ミャンマーは国際刑事裁判所に加盟していないため、訴追は安全保障理事会によっておこされなければならなく、和解へ至る道程は痛みを伴うものだが、国が再建されるためにはとおらなければならない道であろうと論じた。また、将来的な訴追を視野にいれて、現時点で、ロヒンギャ難民の問題について提案できることは、証拠の確保及び保全で、現状の記録を残しておくことの必要性について言及された。
本分科会の概要は、天野会員により作成された。