GPAJ研究大会分科会3で、「特定の国家や地域での平和構築」の状況を討論する。(16/01/2018)

 共栄大学の石塚勝美教授(欧州)、東京大学大学院の山田一竹氏(スリランカ)、東京大学(UNHCR)の宮澤晢氏(東ティモール)、桜美林大学の滝澤美佐子教授(アフリカ) がこれらの地域での平和維持および平和構築に関する研究報告を発表し、日本国際連合学会理事の高橋一生氏がコメントされた。


 まず、共栄大学の石塚勝美教授は、欧州諸国における国連平和維持活動(以下、「国連PKO」とする)の歴史と今後の在り方について報告を行った。欧州は、東西冷戦時代では国連PKOに積極的であったのに対し、ポスト冷戦初期以降から次第に派遣国数は減少し、「国連PKO離れ」が近年顕著である。欧州の国連PKOへの回帰には賛否両論あるが、石塚教授は、国連PKOにおける欧州諸国の参加がもたらす価値と必要性はともに高く、特に専門性の高い分野において貢献が可能ではないかと述べた。


 次に、東京大学大学院の山田一竹氏は、スリランカ内戦後社会における少数派
集団であるタミルとムスリムが直面する現状と平和構築の課題について、「人間の安全保障」という観点から報告を行った。スリランカでの4ヶ月のフィールド調査から、タミル人とムスリムは多大な「恐怖」と「欠乏」に晒されており、更にそれぞれの背景には根本的に異なる理由があることを指摘した。このような状況下で一方だけの民族の安全保障を確保することは、他方の民族の安全保障を脅かす、つまり「人間の安全保障の逆説」に繋がると主張した。また、政府が推奨してきた経済発展中心の平和構築の限界、「タミル人対シンハラ人(同国のマジョリティ)」という二項対立的な枠組みで紛争後社会を捉えることの危険性を訴え、「人間の安全保障」の見地から、少数派集団を主軸に捉えた平和構築の必要性を唱えた。


 東京大学(UNHCR)の宮澤晢氏は、平和構築における伝統的規範の役割について、東ティモールを事例に報告を行った。東ティモールには現在も実効性のあるナヘ・ビティやタラバンドゥーという伝統的ガバナンス制度が存在しているが、国連東ティモール暫定統治機構(UNTAET)によって「法の支配」に基づく法整備が進められ、当時伝統手法は積極的に取り入れられなかった。しかし、昨今では国際機関などが「法の支配」の確立における伝統的手法の一定の有効性を認め支援しており、実定法としても規定されつつある。課題は残るものの、伝統的ガバナンス制度の平和構築への貢献を認めることができると宮澤氏は述べた。


 最後に、桜美林大学の滝澤美佐子教授は、アフリカ連合(AU)の平和活動への取り組みと課題について報告を行った。アフリカ諸国は国連PKOの人的資源面での貢献国となりつつある一方で、AU独自の平和活動においても10件を超え、従来の停戦監視、選挙監視のみならず、安定化活動やエボラなど新しい脅威への対応など新展開をみせている。国連との連携協定がないなかでアド・ホックに国連との協働、引きつぎ等によっても対応し、活動は増加している。アフリカ地域における平和活動を考える上で国連と(準)地域機関との関係や支援を考慮する必要性について報告を行った。


 以上の報告に対して、日本国際連合学会理事の高橋一生氏から、国連憲章第7章に規定されている国連軍が冷戦の勃発で構成されず、そこに本来国連憲章で想定されていないPKOが考案され、それがいつの間にか大きないわば亡霊のように巨大なオペレーションになってきたことを踏まえ、今まではいわば試行錯誤の段階で、この実験を検証し、21世紀型の安全保障の一つの柱としてしっかりとしたものを構築するのが今後の課題なのだろうとコメントがあった。軍事力行使は必ず予期せぬ結果をもたらす、ということが言える。


(報告者: 溝端 悠)

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