日本国際平和構築協会第1回研究大会分科会2にて、平和活動における法の支配と変遷に関して3人の専門家が発表(16/01/2018)

 研究発表は松戸綾乃氏(JICA産業開発・公共政策部)、本多美樹教授(法政大学教授)、佐藤安信教授(東京大学大学院教授)が行い、石原直紀教授(立命館大学教授)が論評された。


 はじめに、松戸綾乃氏(JICA産業開発・公共政策部)は、「フランス語圏アフリカにおける刑事司法の課題とテロ犯罪・組織犯罪対策」と題し、犯罪が発生した事後にどのように対処するかについてサヘル地域の事例をもとに明らかにした。司法手続きをいかに進めていくかが課題であり、具体的には、証拠の収集、司法権の独立、人権に則った手続きを挙げた。議論の中では、法の支配に関してユニバーサルな評価基準を作るのは難しいのではないかと指摘されたが、だからこそ日本がその基準作りをリードできるのではないかとの意見も出された。


 次に、本多美樹教授(法政大学教授)は、「国際秩序の維持と平和構築戦略としての『法の支配』:普遍的な価値基準として法規範は共有されうるのか?」の中で、 平和構築のフィールドで法の支配の理念のもと活動することは困難であると述べた。その理由は、ローカルな価値基準と西洋的な価値基準の対立があるからである。また、国際的な刑事裁判所等の司法機関で改めて問い直されているのは、「正義とは何か」という論題である。これを踏まえ、いかに法の支配を現地に定着させることができるのかが重要であり、普遍的な価値とローカルで多元的な価値を合わせた「ハイブリッドな価値観」を重視する必要があると主張した。


 さらに、佐藤安信教授(東京大学大学院教授)は、「法整備支援のパラドックス」の発表の中で、法整備支援が現地の実状を把握しないでなされている現実を指摘した。つまりそれは欧米諸国の押し付けであり、結果期待していた法解釈がなされず、脆弱な市民が被害を受ける構造が生まれるという「法のインフレ状態」であると論じた。解決策として、法機能のモニタリングと、制度構築だけでなく市民が司法にアクセスできる環境づくりの重要性が述べられた。具体的には、ASEAN、南南協力などマルチな外交の展開と、各国の相互ネットワーク構築の必要性を強調した。


 最後に、コメンテーターの石原直紀教授(立命館大学教授)は、全体のまとめとして、法の支配は国際社会では受容されつつあるが、紛争後の社会に法の支配を実際にどう適応していくのか、という実務における困難さを言及した。制度及びそれを動かす人材が条件として必要であり、地域の人々がキーアクターであると結論付けた。


(報告者: 山口和美)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です