高澤洋志 (広島平和構築人材育成センター): 2011年以降、多くの論者が「R2Pの後退」を論じているが、そうした見解は、R2Pの「第3の柱(時宜に適う断固とした対応)」に含まれる強制措置にのみ注目した偏った見方である。
本報告では、似て非なる「保護する責任(R2P)」概念と「文民の保護(POC)」概念の交錯に着目した。両概念をめぐる議論や実践の展開は、冷戦終結後の「国際平和活動における政策の変遷」を顕著に示す事例と考えられる。また、両概念には「国際社会による武力行使」及び「国際的な行政権力の拡大」を促す可能性が内在しており、とりわけ両概念が交錯する領域で、近年いかなる展開があるかを考察することは有意義である。そこで本報告は、R2P概念とPOC概念の異同を簡潔に確認し、両者の近年の展開を振り返った。R2Pに関しては、潘基文国連事務総長が2009年に示した「三つの柱」及び2011年のリビア介入後の展開を確認した。2011年以降、多くの論者が「R2Pの後退」を論じているが、そうした見解は、R2Pの「第3の柱(時宜に適う断固とした対応)」に含まれる強制措置にのみ注目した偏った見方であろう。実際、POCの近年の展開として、2015年にルワンダが提唱した「キガリ原則(Kigali Principles)」の進展が見られるが、同原則は明白にR2PとPOCの交錯を示すのみならず、R2Pの「第2の柱(国際的な支援と能力構築)」よりも強力な保護措置及びその制度化を促す内容が含まれ、とりわけPKO部隊の判断による武力行使を促進する点に特徴がある。本報告では、以上のようなR2PとPOCが交錯する領域の近年の展開を、R2Pの「第2.5の柱」の進展と捉えた。最後に、その進展に付随する「国際的な行政権力の拡大」の問題点を簡潔に指摘した。
高澤洋志 (広島平和構築人材育成センター) の発表報告に使用されたパワーポイントは、以下の通り。