[平和構築フォーラム東京] 分科会1-1 「SDGsと平和構築支援」

分科会1-1「SDGsと平和構築支援」


報告者

 小山田英治 同志社大学教授(Skype中継参加)
 小松健太 JICA法整備支援担当国際協力専門員/弁護士
 杉村美紀 上智大学グローバル化推進担当副学長


コメンテーター

 猪又忠徳
 山崎節子


ラポルター

 栗原沙莉衣


モデレーター

 井上 健



 モデレーターの井上氏は、2030アジェンダ前文には「平和」について言及している箇所が多く見られるが、「平和なくして持続可能な開発はあり得ず、持続可能な開発なくして平和もあり得ない」と強調されていると述べた。そして、目標4.7の平和及び非暴力的文化の推進については杉村先生に、目標16のターゲット16.3の国家及び国際的なレベルでの法の支配と司法への平等なアクセスについては小松氏に、そしてターゲット16.5のあらゆる形態の汚職や賄賂の減少については小山田先生に報告をお願いすると述べ、報告者の3人とコメンテーターの2人を紹介した。



小山田英治 同志社大学教授
 小山田先生からは、京都よりスカイプで以下のような報告をいただいた。世界の汚職事情として、調査対象国である183カ国の大半が深刻な問題であるとしている。汚職対策はグッド・ガバナンス、民主化の一環としての取り組みとして1990年代半ばより活発になった。しかし、反汚職改革は社会に多大なストレスを与え、政治力学やリーダー・フォロワー関係も変化することが原因となって、新たな不安要素を生み、結果として害を及ぼすだけという研究もある。ポストコンフリクト国に特別な焦点を当てが研究は少ないが、脆弱国家では反汚職改革がどの程度国の安定に寄与するかの議論については実務家・研究者とも合意が取れていない。結局、反汚職戦略に対する明確なガイダンスとなるものは少なく、多くの研究者が汚職取組みは失敗と判断している。しかし、多くの国で汚職を認めないという方向に国民の認識は大きく変化してきており、この点に大きな期待が持てる。汚職対策支援の実施面においては、一国への政治的干渉になるのではないか、またどこから着手するのかなど困難がある。最後に、汚職を測定する指標の整備が課題であるとして、汚職リスクのマッピングなどを指摘した。

 その後のコメント・質問では猪又忠徳教授から、汚職はSDGsのあらゆるゴールの達成を阻むものであるため、経済社会環境からの包摂的な制度構築が必要だとの指摘があった。その上で、何が汚職を生む構造的原因なのか、また汚職抑制にはレジリエントかつ合法的な国家制度構築が不可欠だが、どのような制度的変革が必要かとの質問があった。さらに京都大学の山崎節子特任教授からは、汚職対策の予防・抑止・教育の面でのご自身の経験を紹介したうえで、政府のみならず企業の役割も重要であるとコメントがあった。




小松健太 JICA法整備支援担当国際協力専門員/弁護士
 小松専門員からは目標16における、国家及び国際的なレベルでの法の支配を促進し、全ての人々に司法への平等なアクセスを提供する項目に関して、SDGsとJICAの法整備支援を中心に以下のような報告をいただいた。JICAによる法整備支援はアジアや中東、アフリカ大陸を主に展開されており、支援の3つの柱として(1)法運用組織の機能強化支援、(2)ルールの整備支援、(3)リーガル・エンパワーメント支援を基軸として、同時に人材の育成も行っている。この法の支配ならびに司法アクセスを支援することによって公正・公平な手続きによる紛争解決を目指す。合理的な内容をもった法には、参加手続き、権利の保証そして平等原則が含まれ、結果的に合理的な手続きに従った紛争解決に繋がる。しかし国の基盤を作る法整備支援の道のりは長く、途上国の現状をみると長期的な視点での取り組みが不可欠である。

 その後の質疑応答で、猪又教授は、法源の整備は支援国の押し付けになってはいけないが、日本の法整備支援は何をどこまで提供するのかとの質問をし、山崎特任教授は、共産党一党体制の国々では、チェック・アンド・バランスのコンセプトをどのように法制度に取り入れていくのかと質問した。



杉村美紀 上智大学グローバル化推進担当副学長
 杉村先生からは、教育と平和構築に関して幅広い視点から以下のような報告をいただいた。平和教育へのアプローチには、社会学的・教育学的・平和学的アプローチの3つがあるが、これらの統合に上に平和教育学が構築されている。日本ではユネスコスクールの活動が盛んで現在1,034校が加盟しており、持続可能難開発のための教育(ESD)の推進拠点となっている。ESDは、SDG4のターゲット4.7に記載されているが、同時に17のすべてのゴールの達成に貢献するものである。また持続可能な社会の担い手づくりとしてグローバル・シチズンシップ教育や多様化する社会と人間の尊厳を守るためにインクルーシブ教育に取り組んでいる。まとめるならば、平和構築のための教育の役割とは、基礎教育の普及、知識基盤社会に対応する教育、平和と安全のための教育、多様性の尊重と社会的包摂のための教育であるといえる。

 その後の質疑応答で、猪又教授は、人のDNAを形作るといえるほど教育は重要であるとのべたうえで、日本国内のユネスコスクールは世界で一番多く、これは日本人の国連憧憬の現れと言えるが、これが今後続くのだろうかとの懐疑を示した。山崎特任教授は、デジタル社会における格差の問題やソーシャルメディアの普及に伴うフェイク情報の問題に教育という立場からどう対処していくべきかを質問した。

 最後に、井上氏は3人の報告者と2人のコメンテーターがポイントを押さえた報告とコメントをしたことを感謝した。そして、SDGsの17のゴールはどれも相互に連携し依存しているが、教育に関するSDG4と平和と民主主義に関するSDG16は、すべてのSDGsの担い手でありアクセルであるといえると述べ、セッションのまとめとした。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です