国際平和構築協会は3月17日に東京大学で元国連大使と国連事務次長の職務に当られた大島賢三氏を招いて「国連改革の展望」と題した討論会を開催した。
国際平和構築協会は3月17日に東京大学で元国連大使と国連事務次長の職務に当られた大島賢三氏を招いて「国連改革の展望」と題した討論会を開催した。大島大使は、ブラヒミ報告書が2000年に提出されて以来の国連改革活動の歴史的な進展を説明され、その課題について述べられた。そして外務省の和田幸弘国連政策課長が国連の組織改革の現状に関して日本がどのように受け止めているか話された。二人の後、国連活動に従事してきた専門家や学者などの間で活発な議論がなされた。
(1) 国連平和适動に関するバネル(ブラヒミ報告) (2000年8月)
冷戦後90年代コフィ・アナン事務総長の提言を受けて、従来の停戦監視や戦後復興だけでなく、武力で積極的に武装解除を行うという任務での平和維持活動が地域紛争 (ソマリア、旧ユーゴ、ルワンダ等)では兵力や財源が不十分であったのと安保理の不適切な対応で失敗の繰り返しであった。このような状況を打開するために国連が設置したブラヒミ・パネルが平和維持活動 (PKO) のあり方について改革案を2000年に提出した。この改革案は①紛争の予防/平和創造(prevention/peacemaking)、②平和維持(peacekeeping)、③平和構築(peacebuilding)の、それぞれの分野で改革の必要性があることを指摘し、予防が軍事行動、緊急人道援助、戦争後の再建に比べ遥かに好ましく、国際社会にとり低コストの選択肢を当てえることになるとした。
(2) 国連ミレニアム宣言(2000年9月)は平和と安全、開発と貧困、環境、人権とグッドガバナンス(良い統治)、アフリカの特別なニーズなどを課題として掲げ、21世紀の国連の役割に関する明確な方向性を提示した。
(3) カナダ主導の下に立ち上げられた「干渉と国家主権に関する国際委員会ICISS」(2001年)は人道的介入の必要性について検討して、「保護する責任」(R2P responsibility to protect) というドクロリンを打ち出した。そして 国家の保護責任が機能しない場合には、国際社会が保護責任を全うすべきとした。このドクトリンでは「予防する責任(紛争の原因に対する取り組み)」「対応する責任(状況に対する強制措置(軍事干渉も含む)を含む手段による対応)」「再建する責任(復興、和解などへの十全な支援の提供)」という意味合いも含まれいた。
(4)一方、日本がリードした「人間の安全保障委員会」(2001年) (Commission on Human Security)は武力行使ではなく、開発を主とした議論を進めた。緒方貞子、アマルティア・セン共同議長をふくめた12名の有識者が貧困と紛争とがどのように結びついており、如何なる解決策があり得るかについて問題定義をした。この委員会は最終報告を2003年5月に出し、事務総長が2010年に第一回目の報告を出し、2度目の事務総長報告が2012年に発表された。そして人間の安全保障の定義に関する国連総会決議が2012年9月に採択された。
(5)「有識者諮問委員会(ハイレベル委員会)」報告 (2004年12月)
背 景:2001年9月 同時多発テロ(→アフガン戦争、イラク戦争が続いて)発生。さらにアメリカはイラク戦争時、国連の安保理決議なしにイラクに攻め込む強い意志をしめした。アナンはこれにたいして問題意識を抱いた。
国際社会が直面するテロリスト集団のような新たな脅威に対して一国主義によることなく集団行動で対処するためいかに国連の機能・組織を改革するかというアナン事務総長の問題意識が背景され、国際社会が直面する脅威は(1)貧困・感染症・環境悪化、(2)国家間紛争、(3)国内紛争、(4)大量破壊兵器(核、生物、化学兵器等)、(5)テロ、(6)国際組織犯罪の6つに分類された。
(6)アナン事務総長報告 (2000年3月)
・「より大きな自由を求めて:すべての人のための開発、安全保障、人権」
・9月の50周年サミットを睨んだ改革提案、安保理改革案ではモデルA(常任6議席(常任理事国増やす)、非常任3議席の拡大)とモデルB(再選可能な4年任期の非常任8議席、非常任議席1議席の拡大)がだされたが、 モデルBが有力視された。
(7) 2005年「成果文書」(国連50周年記念サミット、05年9月)
(8)国連平和适動パネル報告 (ラモス•ホルタ報告) (15年)
・HIPPO Report (High-Level Independent Panel on Peace Operations)
・内容は良かったが、国連改革につながるものだったかは疑問であった。
・ブラヒミ報告(00年)以来初の試み、国連財政難の中で、(マリ、南スーダンなどの大規模平和ミッションより)現実的、小規模な平和ミッション派遣、特に「予防」を重視。
・提言の実施は殆ど出来ずグテーレス事務総長に引き継がれた。
「平和維持軍の撤退の条件を整備」できるのは、自立した平和のみであるから、平和維持要員と平和建設要員は「不可分のパートナー」
グテーレス事務総長が新たな国連改革イニシアティブを就任直後に提出した。
(1)トランプ大統領主催の国連改革討論会(2017年9月) @NY
・国連システム全体の反省: Fragmented structures, Byzantine procedures, Endless red tape(官僚主義→断片化された構造。ビザンチン手続き。無限の赤いテープ。)
・改革の目的:人々への奉仕が第一 (people center)
→特に、貧困困窮者、紛争被災民、権利,尊厳を守る、効率•効果的/柔軟•機動的なサービス提供、ジェンダー平等、内部告発者保護、反テロ対策
・平和と安全の柱:「予防」の重視、仲介の役割、より効果的・経費節約型のPKOの必要性
・マネジメント改革:決定権限の分散化(国連スタッフの90%が働くフィールドに権限移譲)、予算手続き等の簡素化、重複組織の排除、透明性、説明責任の向上
(2)安保理討議での発言(17年12月、議長国日本) 安保理改革については特に言及せず
・SDGs(持続可能な開発目標)(30年アジェンダ)
・アナン事務総長「安保理改革なくして国連改革なし」と主張
・インドの女性代表が机上討論を批判
・「High-level Advisory Board on Mediation」の設立(上級諮問委員会)
・紛争予防の重要性
・人間の安全保障概念の有効性
安保理改革の系譜は以下のとおりである。
(1)90年代は、安保理改革作業部会(93年)での議論、ラザリ総会議長(マレーシア)の改革案、挫折(97年) 冷戦中は米ソ対立で安保理改革機能せず
(2)2000年代は、有識者諮問委員会(ハイレベル委員会)と事務総長報告でモデルA、モデルB併記、アナン「安保理改革なくして国連改革なし」
(3)4か国グループ(G4:日本、ドイツ、インド、ブラジル)による常任理事国入りキャンペーン、決議案提出、廃案(04年秋~05年夏)、G4キャンペーンの挫折理由
・国連憲章改正の手続き
・現常任理事国の態度(出来る限り現状維持、中国の反日攻勢:小泉総理の靖国神社参拝が火をつける。もとより政治的配慮も強かった。)
・ミドルパワー諸国の抵抗(日本に対して韓国、インドに対してパキスタン、ドイツに対してイタリア・スペイン・カナダ、ブラジルに対してメキシコ・アルゼンチン)
・アフリカグループ共通立場(2008年アフリカサミットにてG4の参加反対意思表明。)
・日本優先策(Japan first)でやるべきだったとの見方。
(4)「成果文書」での言及ぶり
・政府間交渉プロセスの再開: IGN(安保理改革に関する政府間交渉)の設置(0 7年)、議論の蒸し返し
(5)妥協案/代替案の模索
・暫定的解決、中間案、準常任性 etc.
・国際有識者グループの提案(The Elders)(15年2月)
「長期任期、再選可能」「事務総長任期は7年、1期のみ」「拒否権行使の自制」「市民社会の声を聞く仕組みの強化」
大島大使のプレゼン後に、外務省の和田幸弘課長が現在の改革案の内容と日本の立場を説明した。
グテーレス事務総長の国連改革の目的としては官僚主義排除による国連機能の効率と効果の向上を目指している。改革案のポイントは、事務局の改組、シームレスな対応も構築。
管轄している平和安全保障分野の改革案のポイントとしては、平和と安定の持続の重視、DPPA局とDPO局の二つに再編、PBSOをDPPAの下に配置。平和活動局(DPO)は国連平和活動を地域的別に運営する。平和構築を担当するPBCとの連携が必要。PBCの役割の構築。
日本国としては、予防と平和の持続という考えは我が国の立場と同じくするもの。今年5月にハイレベル会合をする予定。現在は政府間交渉、IGNの調整を行なっている。共同議長ペーパーの改訂、打診。テキストベースでの改革、交渉を中心に行っている(テキストネゴシエーション)。テキストにまとめられるかが、前進できるかの分かれ目。
大島大使のプレゼンと和田課長の説明の後に猪俣会員、山崎会員そして近藤駐日UNDP代表がコメントをした。
本日のテーマは国連改革と理解しているのが、それは、わが国のみが理解する安保理改革だけでなく、平和と安全保障、人権、持続可能な開発という広範な課題への取り組みに向けた改革をどうすすめるかということある。現在、事務総長は、4本のしっかりした改革文書を加盟国に提示している:すなわち (i)SDGsへの取り組みへの国連システムのポジションペーパー(A/72/124); (ii)国連マネージメントパラダイムチェンジ(A/72/492);(iii)国連平和安全保障機構の事務局組織の改革(A/72/525);及び、(iv)国際移住へのグローバルコンパクトの形成(A/72/643)でる。
これら提案全体を貫くゴールデンスレッドは、「予防」である。「予防外交」というのは昔から言われているが、実は、グテーレス事務総長のいう「予防」は、SDG諸分野に及ぶ紛争の根本原因を除去し、紛争リスクが顕在化するのを防ぐことである。すでにそのような行き方は仙台防災枠組みにおいて確立しており、これを防災だけではなくSDGs全体に適用することを狙っている。リスクをまず理解し、確たる根拠に基き誰もが納得するリスク管理法を打ち出す科学と政策のインターフェースを重視している。これを、事務総長は、各国レヴェルで実証的に行おうとしている。
ベトナム政府からの支援に関して言及され、ベトナムで活動している多くの国連機関が参加した改革が成功した主要な原因はベトナム政府がその必要性を認識して支援したことである。背景には、ベトナムが中所得国に移行する途中で、現地の開発機関や銀行が各国から資金調達をしている最中で、政府、国連も政策的な援助が必要であるとの認識を共有したことであった。国連の危機感、政府の意思、支援国の意思という三者の問題意識が共有されたことが改革を成功に導いた理由といえよう。ある程度の成果を得られたということは、政府としてはロードマップを示し、国連としては資金援助から政策援助に移行できたことである。今の国連改革の案としては非常にSDGで範囲が広い訳であるから、ビジョンが必要である。ビジョンなしでは改革のための改革になってしまう。改革される側から、どのような改革が必要であるかということを理解する必要がある。理事会側から案が出ている訳だが、一つの案として、俯瞰的に国連の開発援助を見ていくことは良いと思う。
そして山崎氏はリーダーを孤立無援にしてはいけないと説いた。資金繰りをどうしていくかということは考える余地がある。開発に関して:SDGで分野が広い。ビジョンが必要。ビジョン無しでは改革のための改革になってしまう。それぞれ違うものにこたえられるような改革が必要である。具体的には、①合同会議開催。ヨーロッパベースの専門機関(国連よりも古い歴史)活用、②Resident Coordinator を指導者として孤立無援の状況にしてはいけない、そして③改革の一環としてFinancing for DevelopmentをIFIsと協調する必要性があると説明された。
近藤哲生UNDP駐日代表2030年に向けての「持続可能な開発目標」SDGsの採択プロセスが国連改革を暗示するものであると説明した。このSDGsのバックボーンはヒューマンセキュリティーであるとの認識をしめした。そしてSDGsの実施のモニターは加盟国の役割であり、SDGs Agenda32:「技術支援は市場価格において」は、ただでは出来ないが、途上国なのでサービスしるとのことである。SDGs M& :統計数値を出す能力の必要性。(結核、マラリア、エイズ等)→世界基金からお金をもらう必要がなくなる。途上国の多様化、歩み寄りが現れている。しかし、危機的状況に置かれている難民などを援助することにギャップがある。
SDGsでは230のインジケーターが決定しているが、統計数値を出す能力がないといけないので、その能力の強化が必要である。内閣府もSDGsについて自治体の国際貢献を推進しているおり、地方の自治体が国際貢献をすることは意義がある。日本は人間の安全保障を重視してきたため、非常に大きな発言力が期待できる。
会員による自由討論の要点は以下のとおりです。
花田副理事長が、国連改革の最も根本的な一つは国家の主権概念をどう捉えるかを問いた。グテーレスに即して言えば、予防外交だと思うが、主権概念は絶対的に維持されるべきものなのか、柔軟に考えられるものなのか。主権が絶対だというのは、18世紀時代のことにさかのぼることで、現在ではもっと柔軟に考えるべきであると思うが、グテーレス事務総長はどの歴史的な進展をどう読み解くか。
源田会員が国連PKOで従事している兵士が自主防衛を維持していく場合に、戦闘などが起こっている事態でどのように自主的に介入で来るかが問題であると指摘した。
水野副理事長は国際社会において国連の権力とか威信が落ちているということを多くの人たちが感じているが、それは加盟国の責任だと述べた。米露といったグレートパワーたちが本来国連に協力すべきなのだが、無視するような行動を取るようになってきた。大国が安保理で拒否権の行使を抑止していた時期があったが、どの辺りからこの状態が崩れてしまったかを問いた。
石塚理事が改革案での予防重視されている点で、現時点では改革以前で国連の平和重視の方針の下で、多くの国連職員が犠牲になっている。国連としては犠牲者が出るような危ないミッションに対して、予防以前に国連としてやっていくべき事は何であるか、そしてどのような手を打っていくのかが課題であると指摘した。
国際移住機構日本事務所の佐藤代表はフィールドでの経験をもとにして、相手政府が一枚岩になっていない時、交渉が難しいが点を指摘した。そして現場で必要な資金を本部での予算設定に乖離があると感じるのだが。
熊谷理事は安保理改革における理念について、資金を提供している国が代表されるべきか、民主主義の理念はどこまで適用するのか。包括的な平和が実行に移されつつある中で、国連の人権理事会は改組されたが、民主主義の理念と人権を尊重していない国が理事国になっていることは問題であるといえよう。
井上監事は人間の安全保障の考え方はいいのだが、この概念の名称の賞味期限が切れているのではないか。10年前は人間の安全保障という言葉はたくさん登場していたが、現在は違う環境になっている。同じ考えを推進いていくうえでも、別のラベルに付け替えたほうが良いのではないか。日本の弱いのは、人権に関するところが非常に弱い。カンボジアについても、人間の安全保障はどこにあるのか。こういう状況を全く見ずして人間の安全保障なんて言い続けるから、一貫性が保てなくなる。
小山教授が第2の人間安全保障(Second Human Security)という概念が言い出されており、新しいヒューマンセキュリティーの考えを打ち出して、第二の波を作り出すのも一案であるとの見解を示した。現地で活動していた時に感じたのは、フィールドレベルでは連携に問題がなかったといえるかもしれないが、政策上の援助が噛み合わなかったことがあった。ある程度の枠組みはあったほうが良く、皆が見られるような枠組みを作ったほうが安全かと思うと述べた。小山教授はまた予防外交について言及して、事務局と加盟国がこの非常に目立たない活動にどれだけ本気なのか問うた。事務局にとってもシビルアフェアズがエトセトラに含まれているのではないか疑問視した。小山教授が現地におられた頃はシビルアフェアズが諜報活動のようなものとして使われていた。従来あったコミュニティ活動に戻らないままだと、本部は予防外交が大切だと言いつつ、フィールドでは重視されないままになってしますのではないかという懸念があると述べられた。
中沢広報主任が、改革の議論がされていない部分としては専門機関グループがあると指摘した。キルギス、マケドニアなどでの経験を振り返ると国連のエージェンシーのフィールドにおける連携というのは非常によく行われていたので、改革によって良く働いていた部分まで変えられてしまうことがないように留意すべきである。国連システムの改革の中でこういった専門機関の動きについても見て行く必要がある。国連システムの外側についても、かつては外側にあった主要な地域開発金融機関が21世紀に入って危機対応、安全、情報共有などの分野で実質的に国連システムの一部として連携・協調するようになった例がある。近年、新しいマルチの組織がいくつか創設され、その動向が注目されている点にも注意が必要だ。
キハラハント教授が人権というビジョンがどんどん共有できなくなっているのではないかと述べた。人類に対しての人権侵害等が起きる場合など、日本はこれに対して取る対処法というのはあるのか。
金子会員はUNDPのフィリピンに赴任するにあたって、国連としては中立でなくてはいけないと思うのだが、現地では日本政府とのどのような距離感で望むのがよいのか問いた。
討論中にコメンテーターズに向けられた質問に応じて以下のように意見を述べた。
近藤UNDP代表は、予算化もして実施しているのだが、SDGs未来都市としてやっている。行政改革の中心に据えた。近藤 文書等に「人間の安全保障」という言葉があると、日本が重視されているように感じられて、政府としても嬉しい。そういう忖度はある。日本は変わらないと世界に置き去りにされてしまうとの懸念を表した。レジデントコーディネーターという重要な存在は引き続き必要である。
猪又大使は、予算は最終的には本部の財務局が管理する権限がある。フィールドでそれを受け入れるか。そもそもフィールドでどのくらいお金が必要なのかを推し量る正確なデータがない。現場のデータの報告先に皆困っている。まずレジデントコーディネーターに報告すべき。そういった情報のデータベースを構築すべきである。大使館でも国連システムの仕組みをより詳細に理解すべきである。
山崎女史は現地政府の支援があった地域は成果が上がっている。受け入れ側の国が改革に関心がないとなかなか難しい。ニーズをはっきりさせてもらわないと支援は非常に難しい。国連の常駐代表(RC)は国連の現地の活動を調整するので、ある程度のその国の状況、ニーズがわかっている人でないと調整自体が難しいのと、資金の必要性を指摘した。
尚且つ討論中に質問や指摘された点に関して、大島大使と和田課長が個人としての見解を述べた。
大島大使は日本の国連大使そして国連事務次長としての経験から、理念や理想論と現実の立場で行動する場合に関しての見解を述べられた。
国際公務員として、出身国との距離感だと思うが、理想論としては中立。国連で人道支援を行った経験から言えることは、普通の倫理観に基づいて行動する必要性がある。予防外交は聞こえもいいし大事というのは皆わかる。例えば自然災害、これは災害が起きた後にどう支援するか、というのではなく、自然災害が起きないように、それか起きた時に被害を拡大させないようにというのが防災。スイスがISDRを予防と防災を強化する国際的な枠組みを設けるために重要な役割を果たしてくれた。監督的な立場にある国や人たちがリーダーシップをとることは、組織の効率を向上していくことは大切であると述べられた。予防とどう絡んでいくかということで、見ヤンマーなどで起きている状況が放置されていることは好ましくないと述べた。
安保理の常任理事国(P5)は特権を持っている。濫用すると批判に晒されて行使しにくくなるという雰囲気が感じられた。団結(Unity)して出来るだけコンセンサスを保つということで、一時はP5の間でも自律心が働いていた。最近の傾向でいくと確かに緩んでいる。ロシアが特権を使って栄光を回復したいということで、濫用する傾向にある。中国もその傾向にあるが、ロシアほどではない。アメリカはイスラエルの問題は躊躇なく行使するが、トランプのもとでセンシティブな問題が出た時に、抑止力は働かないのではないか。新しい常任理事国の枠ができた時、どのような国がふさわしいのか。アナン事務総長は改革に非常に熱心だったが、国際連合への貢献度を総合的に判断するというのが一つの基準であった。この中には民主主義は入っていない。拒否権をやめさせるというのはできない。行使をある程度制限するのはできる。安保理改革の中にも拒否権行使の抑制がある。例えば、最低限の説明責任。なぜ拒否権を行使したのかを説明しろということ。合意可能な範囲で制約を作っていくというようなこと。国連への貢献度を定めるには、PKOへの参加や拠出金等ははっきりとしている。
今日の世界でいえば、中国は非常に主権にこだわり、外部からの干渉を嫌う。そうはいっても悲惨な人道状況が存在する時、国際社会は何もしなくていいのか?そこのバランスを保つのが必要であると指摘した。イギリスのブレグジットも同じ要因を指摘することができる。本来なら主権国家がやるべきことに国際社会が侵食していることは否めない。やはり地域統合が進めば、各国の主権範囲を合理的に狭めて、統合していくのが大きな流れとなると思う。
日本では若い人の関心が薄れていると。ナショナルサービスアクトというものを提案したい。日本に徴兵制なんていうととんでもないということだろうが、ナショナルサービスを促進する。大学を出てから就職までにいくつか経験をする。ボランティアでもインターンでもいいが、何か経験をする。企業がそういう経験を尊重するというのがあれば、若者の意識は変わると思う。何かがないとぬるま湯の中で日本はどんどんそうなってしまうとの懸念を表した。
和田課長は主要な国々の思惑が交錯し、国連の十分な機能を妨げているが、国連の正統性のある分野での行動は長い目で見れば可能であるとの見解をしめした。
ロシアにはリビアで米英仏に騙されたという感じがあったのではないか。そしてシリアでは拒否権を行使した。北朝鮮のことに関しては全会一致で決議したことは有意義である。国連改革案では、軍事顧問とか、政策強化訓練行事等は平和活動局(DPO)の中に配置されるようである。機構的にはそれなりに整うであろうが、どのようにファンクションするのかということについてはなかなか難しい。国連安保理改革の交渉に臨むにあたって、G4(日本、ドイツ、インド、ブラジル)での共通の立場というのはない。議論の流れを見て決めて行くということだと思う。
尚且つ和田課長は報告書では触れないが、国連は主権国家ではないから、国家間だと主権侵害になるようなところも、国連ならば介入できるのではないか。それが国連の意義ではないのか。そういう国連が正統性をもって行動できることを模索していきたい。
長谷川祐弘理事長が最後に大島賢三大使がこの2000年以降の国連改革の試みに関して分析なされ、和田幸浩課長がグテーレス国連事務総長の提唱された事項に関しての日本政府の受け止めと対処の仕方に関して貴重な説明に感謝の意を表するとともに、討論で浮き彫りになった点に関して自らの見解を述べられた。
大島大使が2017年9月にトランプ大統領が主催した国連改革討論会で、グテーレス事務総長が平和と安全の柱として「予防」の重要性を指摘されたが、長谷川理事長は、予防の重要性はブトロス=ガーリ事務総長が1992年に「平和への課題」で言及していたと、自署の論文「ブトロス=ガーリの遺産」の6頁を参照して述べられた。そして、必要なことは人間の本質的な変革、すなわち人間のエートス (ethos)あるいは本質(essence)を確保することが重要であり、人間社会にあるべき精神状態とか道徳的規範の変革であると説いた。国際社会で指導的な立場にいる国や指導者に求められるのは、自立心(independence) だけでなく自律心(self-discipline)であり、自らの権力欲(desire for power and authority)や金銭欲(desire for money and wealth)、名誉欲(desire for status)、や自己保全欲(desire for self-preservation)を克服することあると説いた。大島大使が指摘されたように、一時的には大国が自律心を発揮して拒否権を発動することを抑制したが、最近になって権力維持の欲望や衝動を抑えることが出来なくなってきていることは憂慮される。
第2点として長谷川理事長は「保護する責任」と「人間の安全保障」の概念の核心的な相違を把握する必要性と示唆した。「保護する責任」は現地の政府であろうが国際社会であろうが住民の生命や人権を外から守るといくことを意味したが、「人間の安全保障」は住民が自らの生命や人権を守ることを意味したのである。長谷川理事長は、「人間の安全保障」の概念の機関となっている「人間開発」が人間の主体性(centrality)と 人間個人の威厳(integrity)を確保することであることを日本の政策立案し施行する方々が積極的に広めていくことが重要であると述べられた。「人間の安全保障」の概念が古くなり国連本部ではもはや言及されなくなったとの指摘に関して、長谷川理事長は「人間安全保障」の基幹要素を新たな、ピープル・ファースト(People First)というスローガンで進めていくのも良いかも知れないと述べられた。